路上生活者における

社会的排除の現状

大阪市西成区の事例より 

2019年 1

 

要約

本稿では、包摂的な日本社会に向けた第一歩として、路上生活者に対する社会的排除の実態を調査し、有効な政策の検証を行う。

 近年、日本の路上生活者数は年々減少しているが、路上生活の長期化と路上生活者の高齢化は深刻な課題であるとともに、路上生活者に対する世間の目は非常に冷たい。現在、路上で生活している人の多くが、生活保護制度を利用するのではなく、体力が続く限り働き続け、自分の力で生きていこうと考えている。しかし、彼らが希望する就労の機会は十分ではない。

この問題に対し、本稿では社会的排除という観点から路上生活者の置かれている状況を把握し、どういった要因が社会的排除に影響を及ぼしているのかを計量的に分析する。

まず第1章では、現状分析及び問題意識について述べる。現状分析から、路上生活者は年々減少しているが、路上生活者の高齢化と路上生活の長期化は、現在の路上生活者における問題である。そして、それらを引き起こしている要因の一つに、路上生活者の満足のゆく就労の選択肢が十分にないこと、上手く事業者とマッチできていないことが挙げられた。

2章では、先行研究及び本稿の位置づけについて述べる。これまでに社会的排除を測った実証論文や、海外や日本の社会的排除の現状を議論している論文を取り上げ、これまでの研究の蓄積を述べる。排除の積み重ねの結果とされていた路上生活者に対し、実際にどれほどの社会的排除が存在しているのかを調査・分析した研究はほとんどなく、本稿の新規性は十分にある。

3章では、理論及び分析について述べる。本稿では、我々が201810月に大阪市西成区釜ヶ崎地区に訪れ、NPO法人釜ヶ崎支援機構の協力のもと、独自の調査票を用いて、路上生活者への聞き取り調査により得られたデータを用いて計量分析を行う。本稿では、社会的排除指標に、「制度からの排除」「社会関係の欠如」「社会参加の欠如」の3次元を用いた。また、その3次元を総合し、それぞれの次元のウエイトを等しくした「総合社会的排除指標」の構築も行った。分析の結果、就労が「社会関係の欠如」に正の影響を与えていることが示唆された。またどの次元においても、路上生活者の排除率が非常に高いことも明らかになった。

最後に第4章では、前章の理論及び分析の結果をもとに、政策提言を行う。政策提言Ⅰとして、特別清掃事業の改善案「トク掃日記」を、政策提言Ⅱに社会参加の場の構築「ざっくばらん会」を掲げる。我々は、現在の就労の場を応用する政策を考え、既存の重要な就労の場である特別清掃事業において社会関係が育まれる環境に改善していく提言をする。提言Ⅱでは、包摂的な日本社会に向け、若い世代に路上生活者に対する理解を深める機会を提案する。

 以上の政策提言により、路上生活者がより生きやすく、一人一人が地域社会の一員として支え合い、相互にめ合い、将来の日本社会に向けた一歩に寄与すると考えられる。